歯とお口のお話

予防について

プラークコントロールについて

ひと言でいうと、健全な食生活を確保して生命を維持させることです。 それはその人のQOLの向上(生活の質の向上)が第1の目的です。人はいくつになっても、生きていく限り“おいしく口から食べたい”と望んでいるものです。また口から食べるということは全身の健康にもよい影響があります。 国で展開している21世紀における国民健康づくり運動「健康日本21」にも『歯の健康』の項目が掲げられており、幼児期・学童期のむし歯の予防、成人期の歯周病予防、80歳で20本の歯を残そうという運動「8020運動」の達成者の増加などを目標としています。歯科疾患、すなわちむし歯や歯周病の予防を行うためには、その原因であるプラークを除去することが大切です。プラークは細菌の塊で、水に溶けない性質を持っているため、そのままでは到底除去することができず、うがいでの除去はできません。プラークは、歯と同じような白い色をしているので、目で見て区別ができません。そこではっきりとわかるように染め出し液で染めてみました。一見きれいに見えてもこんなにプラークがついているのです。みなさんがいつも行っている歯ブラシを使用して機械的に除去していくしかないのです。 言い換えれば、むし歯や歯周病は自分で予防することができるということです。お口の中の状態は人により異なっているので、適した歯ブラシの選択や歯みがきの方法は歯科医師や歯科衛生士に相談するとよいでしょう。

ブラッシングについて

むし歯や歯周病の原因であるプラークを除去するために、ブラシで歯を磨くことです。

(1)歯ブラシの選び方

お口の大きさや年齢、むし歯や歯周病などの状態などを考慮して、プラーク(歯垢)を除去することができる歯ブラシを選びましょう。 大きさは、口の中での操作性を重視した小さめのものがいいでしょう。目安として、歯ブラシの毛の部分の長さが、上の前歯2本分か、下の前歯4本分の物がよいとされています。 歯ブラシの毛の硬さは、かため、ふつう、軟らかめと表示がされている物がありますが、ふつうの硬さを使用すると良いでしょう。 歯みがきのポイントですが、歯に付着したプラークを除去することが一番の目的です。歯ブラシの毛先を歯の面に直角にあてて、軽い力で小刻みにこすって除去していくのがよい方法です。 しっかりと「磨いている」と「磨けている」の違いを理解しましょう。

(2)補助器具について

歯ブラシの届かない歯と歯の間などの場所の清掃には、歯ブラシの毛先が届かないため、デンタルフロスや歯間ブラシなどの器具を使用してプラークを除去します。

①デンタルフロス

細い繊維を束ねたナイロンの糸でできています。歯と歯の間に通して、歯ブラシの届かなかったところに付いているプラークを除去していきます。

②歯間ブラシ

針金に歯ブラシの毛と同じものをつけて巻いてできたものです。デンタルフロスと同様に歯と歯の間のプラークを除去するものです。歯と歯の間の隙間が空いてしまった人や、歯が抜けてブリッジという治療をしたところなど、歯ブラシでは届かない隙間のプラークを除去するのに効果があります。

③歯磨き粉

プラークは歯ブラシの毛先を当てれば除去することがでるので、必ず使用しなければならない物ではありません。歯が削られたり、歯ぐきが下がったりする原因となることもあります。また、清掃が十分でない場合でも、その香りによる一時的な爽快感をまねくことで「磨けていない」のに「磨けた」と感じてしまうことがあるので、注意しましょう。 使用量の目安としては、歯ブラシの毛の部分の長さの1/4~1/3程度にするといいでしょう。

歯科医院で行う専門的な予防

(1)PMTCについて

Professional Mechanical Tooth Cleaning の略で器械を用いて専門的に歯をきれいにすることです。 プラークコントロールとして皆さんがいつも行っているのは、歯ブラシや補助器具だと思います。これらは、誰でもが自宅で行うことができるものです。しかし、食器を毎日使っているとどんなに洗っていても、茶しぶなどが残ってしまっていませんか?歯も同様です。 毎日の歯みがきで届きにくい場所を専門家(歯科医師、歯科衛生士)が専用の器械を用いて、汚れが残りやすい歯と歯の間を狙ってきれいにする、それがPMTCです。そしてお掃除するだけでなく、むし歯になりにくいように歯質を強化するフッ素を塗布します。

(2)フッ素について

フッ素とは、自然界に通常存在する元素で、海藻やお茶などの食品に比較的多く含まれています。

【なぜむし歯予防に効果があるの?】歯は細かい結晶の集まりでできています。陶器を思い出してみてください。土(細かい粒の集まり)を焼くとつるつるの艶のあるお皿などができてきます。フッ素はその細かい粒に作用し、丈夫な粒にしたり、壊れにくい粒にしたり、少しの壊れかけた部分の修復を促したりすることができるのです。 また、歯だけではなくむし歯を起こす細菌にも働きかけ、細菌に酸を出させないようにする効果があります。 これらのことで、細菌の出す酸に負けない強い歯を作り、たくさん酸を出させないようにすることでむし歯予防になるのです。 フッ素を用いたむし歯予防の方法は、大きく分けて3つあります。1つは歯科医院で歯に直接フッ素を塗る。これは、濃度が濃い物を使っているので、専門家(歯科医師、歯科衛生士)のもとに用いています。もう1つは、家庭で用いる方法です。これは、ぶくぶくうがいをする方法や、フッ素配合の歯磨き粉を使うこと。あとは、地域などの公衆衛生の場面で用いる事です。ご自身で積極的に行うことができるのは、前の2つです。 かかりつけの歯医者さんにまずは聞いてみましょう。

(3)シーラントについて

皆さんのむし歯は歯のどこに多くありますか?多くは奥歯の噛み合わせの部分ではないでしょうか。
奥歯の噛み合わせには、山あり谷あり、とても複雑な形をしていて、その谷底はとても細い隙間になっていて歯ブラシが届かないほどなのです。隙間は汚れの巣窟です。どんなにきれいにブラッシングしても取り除けません。ですから、むし歯にとてもなりやすいのです。 そこでその溝を初めから埋めてしまおうとしたものがシーラントなのです。これは歯医者さんに行かないとできないことです。また、シーラントをするのに適した歯があります。 それは①深く複雑な溝を持つ奥歯②生えてから4年未満の歯です。 他にも経過観察ができるように定期検診ができる方ということもあります。というのは、一度詰めても脱離したり割れて隙間ができてしまったりすることもあるからです。割れてしまっていても気が付かないでそのままにしていると逆に汚れを貯めやすくしてしまうので気を付けなければなりません。いずれにしても、きちんとシールされていればとても有効なむし歯予防方法です。

(4)キシリトール

キシリトールとは、今や日本においても、多くの菓子類に砂糖の代わりとして代用甘味料として使用されています。砂糖の代わりとしての代用甘味料は他にいくつもありますが、どうしてキシリトールがむし歯の予防につながっているのでしょうか。 まず、キシリトールの性質について説明します。まず第1に天然素材であり、野菜や果物にも含まれており、その安全性に問題が少ないこと。第2には、砂糖と同様の甘さがあるということ。第3に砂糖と比較してカロリーが低いということ。 そして、むし歯予防に効果かある。ということです。これは、むし歯のところで説明いたしましたが、砂糖を餌にしてプラークを作る原因でもあり、そのプラーク中で「酸」を出して歯を溶かしてしまうストレプトコッカスミュータンスという菌が、キシリトールでは「酸」を出すことができないのです。さらに「酸」を出すことができないストレプトコッカスミュータンス菌は、だんだんとその力をなくしていってしまいます。ということはむし歯の予防には、欠かせないものです。 キシリトールの摂り方は、歯科医院で歯科医師や歯科衛生士に相談するとよいでしょう。また、キシリトール入りのガムなどを摂った場合でも、その後には必ず歯みがきを行って下さい。

(5)リカルデント

リカルデントという名前のチューイングガムが市販されています。 「歯を丈夫で健康にする」効果があるといわれていますが、その成分はどんなもので、どのようなメカニズムで作用するのでしょう。 リカルデントは牛乳から生まれた物質で、牛乳タンパク質と燐酸カルシウムからなる複合体です。むし歯予防のメカニズムは、リカルデントが口の中、特に歯の表面に存在することで、歯が酸より溶かされる(脱灰)のを防いだり、ごく初期のむし歯の進行をくい止める(再石灰化)のを促したりすることです。 リカルデントは今のところ、ガムを媒体としてだけ利用されています。ガムはこれまでの感覚からすれば嗜好品であり、歯磨剤のように口の健康を守るために利用する習慣とはなっていません。 リカルデントガムは「特定保健用食品」として認可されていますが、同様の効果を得るには、1日4回、20分噛むことを2週間続けることが必要です。このように、リカルデントはむし歯予防のひとつの方法ですが、フッ素や歯科医院での専門的なケアや定期健診などと組み合わせて利用することが大切です。

食事の注意事項

21世紀における国民健康づくり運動「健康日本21」に【栄養・食生活】の項目があります。「まず、栄養・食生活は健康な体の源となるものである。バランスのよい食事をして、適正体重を維持する。また、ちゃんとした知識をもつことも大切である。」と掲げてあります。 むし歯や歯周病の予防としても、バランスのとれた食生活を営むことはいうまでもありません。 むし歯や歯周病の原因であるプラークを作りにくい食生活を心がけることも大切です。誰の口の中にもいるストレプトコッカスミュータンスという菌は、それだけではプラークを作ることはできません。私たちが食事や間食として摂る「砂糖」がないとプラークは作れません。一般にその砂糖は食事の中にも当然含まれているのですが、間食として摂る砂糖が特に問題です。間食の回数とむし歯の数には相関関係があるといわれています。 なるべくなら乳児・幼児期に甘味性の食品を与えないように、そして規則正しく間食を摂るように心がけることが大切です。不規則な甘味の摂取は、プラークの形成を促し、むし歯の数を増やすといわれています。 しかし、現代においては、誰もが自由に自分の食べたいものをいつでも食べられる環境にあることも事実です。砂糖の入っているものを食べてはいけないなど、禁止することは不可能です。そこで、なるべく間食の回数、時間、量を決めて食べる。そして、その後には必ずプラークコントロールを行うことが何よりも重要です。